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【対談】カーボンニュートラルアクションについて、想いを共にする仲間と語る

左から、e-dash株式会社 井上氏、同 石川氏、トヨタアルバルク東京株式会社 栗盛、アデコ株式会社 小杉山氏


「カーボンニュートラルにスポーツの力を」


アルバルク東京は社会課題への取り組みのひとつとして、温室効果ガスの排出量を「実質ゼロ」に抑える「カーボンニュートラル」に取り組んでいます。2022-23シーズンはホームゲームで排出された二酸化炭素(CO₂)を測定し、その排出量分を吸収する活動に寄付する「カーボンオフセット」を行いました。
アルバルク東京が社会課題や環境問題に取り組む意味と今回の取り組みから見えてきたことを、SDGsサポーターの仲間と共に考えます。

対談のポイント
・アルバルク東京の2022−23シーズンのホームゲーム等から排出されたCO₂は約1,212t-CO₂e。これは325世帯の年間排出量と同じくらいの量。
・アルバルク東京は、多くの人が社会問題に取り組むきっかけを創りたいと考えている。
・地球の温暖化は誰も逃れられない問題。2050年までに温室効果ガスの排出量実質ゼロにするのが目標。さらに早い達成が必要という声もある。
・今回得た学びを活かして、これからも、アルバルク東京はさまざまな人や組織と共にカーボンニュートラル実現に向けて取り組み続ける。


ー登壇企業・登壇者

e-dash株式会社
井上雅章

e-dash株式会社 エンタープライズ部 部長
トヨタアルバルク東京の脱炭素プロジェクト(CO₂排出量可視化)統括責任者
石川勇斗
e-dash株式会社 カスターサクセス部 部長
トヨタアルバルク東京の脱炭素プロジェクト(CO₂排出量可視化)算定責任者

アデコ株式会社
小杉山浩太朗

Adecco Group Japan 
Head of Sustainability / ESG
ニューヨーク大学(NYU)卒。カナダ、アメリカ、スペイン、日本にて国際問題の根本的な解決、持続可能な開発の実現のために、国連やNGO、企業などとさまざまなアクションを展開。2019年には世界のユースリーダー代表として国連総会議長より国連本部での各国大使とのパネルに招待されている。2020年よりアデコグループにおいてSDGsを根幹に反映した企業の在り方を実現すべく、サステナブル・トランスフォーメーションの責任者として活動。企業や個人へのコンサルティングや研修も行っている。2022年、SDGs経営やBeyond2030の在り方についての著書出版。


トヨタアルバルク東京株式会社
栗盛謙

トヨタアルバルク東京株式会社 経営企画部企画室長兼SR(Social Responsibility)グループマネージャー。クラブの社会的責任活動の推進を担当。




ーなぜスポーツクラブが社会課題解決に取り組むのか?

栗盛(アルバルク東京)
アルバルク東京は2021年に『ALVARK Will』という社会的責任活動プロジェクトを立ち上げて、さまざまな社会課題に向き合っており、カーボンニュートラルも重要なテーマの一つです。今回は「アルバルクがカーボンニュートラルに取り組む理由」「そもそもカーボンニュートラルとは?」「これまでの取り組みから見えてきたこと」について、SDGsサポーターの企業の皆さまとお話ししていきます。まずは、ご紹介をお願いします。

井上(e-dash)
e-dash株式会社の井上です。e-dashは「脱炭素を加速化する」をミッションに掲げ、サービス開始以降、民間企業を中心にCO₂排出量の可視化や削減支援を行ってまいりました。スポーツを通じて環境問題に継続的に取り組まれるアルバルク東京の姿勢に強く共鳴し、今般、SDGsへの取り組みを支援しています。ファンの方々をはじめ、広い発信力・影響力を持つ「スポーツの力」を通じて、アルバルク東京と共に気候変動問題に取り組んでいます。

小杉山(アデコ)
アデコ株式会社の小杉山です。当社は「『人財躍動化』で、社会を変える。」というビジョンを掲げて事業を行っています。「VUCA」の時代と呼ばれ、将来を見通すことが非常に難しい現代において、誰もがいきいきと働くことができる社会の実現を目指し、様々なサービスを提供しています。社会課題解決にもその一環として、積極的に取り組んでいます。

栗盛(アルバルク東京)
早速ですが、今回、e-dashさんのご協力をいただいて、2022-23シーズンのホームゲームなどで排出されたCO₂の量を算定しました。年間で1,212t-CO₂eという結果が出ましたが、これをどう評価すればよいでしょうか?


井上(e-dash)
他と比較することで規模感がつかめると思います。家庭の排出量に置き換えると、325世帯の年間排出量と同じくらいです。全体からとらえる
と、全世界のCO2総排出量は年間368億t- CO₂e、うち日本が10億t- CO₂e、うち東京都は0.5億t- CO₂eです。なので、アルバルクは東京都全体の0.002%ですね。

栗盛(アルバルク東京)
そう聞くととても小さな規模のような気もしますが、みなさんから見て、スポーツクラブが社会課題に取り組む意義はどこにあると感じていますか?

小杉山(アデコ)
スポーツが持つ発信力や心を揺さぶる力に魅力を感じています。社会課題は特定の人だけで解決できるものではないので、多くの人がその課題を知り、自分ごとにして取り組む必要があります。その点で、スポーツは多くの人に働きかけ、感情に触れることができますよね。好きなクラブ、好きな選手から届くメッセージは、心に強く響きます。それは単にネットやSNSで記事を目にするのとは圧倒的に違うインパクトがあります。これはクラブの事業から直接排出したCO₂の規模を超えた大きな話ですね。

井上(e-dash)
我々も同じように考えています。カーボンニュートラルについてさまざまな企業様とお話ししていますが、まだまだこのテーマへの関心度や理解度にはバラつきがあると感じています。スポーツクラブのような注目を浴びやすい存在が先頭に立って取り組むことで、
多くの企業がカーボンニュートラルについて考えるきっかけができると考えています。

石川(e-dash)
経済界では近年、環境問題をめぐる規制も強化されてきていますから、そうした外圧をきっかけにカーボンニュートラルに取り組み始める企業様も多くいらっしゃいます。ただ、そういう「義務感」ではなく、「共感性」によって行動を促せるのは、スポーツのユニークな部分ですね。

栗盛(アルバルク東京)
なるほど。私たちが社会課題に取り組む理由の一つが、
「多くの人が社会課題に触れて、考えて、行動するきっかけをつくりたい」というものです。その点をご評価いただけているのは嬉しいです。こうした取り組みを継続して、ちゃんと発信していくことが大切ですね。



ーなぜカーボンニュートラルに取り組むのか?どこを目指すのか?

栗盛(アルバルク東京)
CO2が減らずに排出され続けるとどんなことが起きるのでしょうか?

小杉山(アデコ)
一言で言うと、地球が持たない、と言われています。「プラネタリーバウンダリー」という考え方があって、これは水や空気などのさまざまな面において地球上で人が安全に活動できる限界を示したものです。ただ、すでに多くの項目でその限界値を超えてしまっています。この状況が続くと、人間が地球に住み続けられなくなってしまう恐れがあります。CO₂の問題もここに関係していて、今のまま排出され続けてしまうと、地球の気温が上がり、極端な気候変動や生態系への悪い影響を産み、食料問題にも繋がると警鐘が鳴らされています。私たちの生命が危険に脅かされてしまうのです。

井上(e-dash)
身近なところでは、近年は夏がとても暑くなっていますよね。運動会で熱中症になって倒れてしまう子が増えたり、夏にスポーツができなくなってしまったり…。

栗盛(アルバルク東京)
遠い話ではなくて、すでに影響が出ている問題なんですね。しかし、CO₂を多く出しているのは発電所や工場、あるいは輸送などの特定の分野だというイメージです。そうした産業に関わっていない私たちにできることはあるのですか?

小杉山(アデコ)
発電所や工場で作られた電気や製品を使うのも全て私たちです。だから、みんなが当事者なんですよ。近年は、ビジネスの世界でも考え方が変化しています。以前は環境問題よりも経済的な成長が優先される傾向がありましたが、現在は、「環境という土台が無ければ社会も経済も成り立たない」という考え方がスタンダードになってきています。これを「SDGsウェディングケーキモデル」と呼んでいます。

「SDGsウェディングケーキ」 【出展】Stockholm Resilience Centre


栗盛(アルバルク東京)
確かに、実際にカーボンニュートラルに取り組んでいると、費用や工数がかかってしまう悩ましさに向き合う時があります。ただ、そもそも事業についての考え方が変わってきているということですね。

小杉山(アデコ)
はい。世界的にみると、特にヨーロッパが環境問題の解決に向けた動きが活発で、企業に対してサステナビリティ情報の開示が強く求められています。取引先のサステナビリティへの取り組みまで求められます。ヨーロッパやアメリカではそこをクリアできないとそもそも企業として生き残っていけない、という状況になってきています。

栗盛(アルバルク東京)
なるほど。私もクラブとして重点的に取り組むテーマについて最近改めて考えていますが、カーボンニュートラルは外せません。全ての企業、全ての人が社会的責任として取り組むべき課題ですから。加えて、現在江東区青海に建設中の新しいアリーナは臨海部に建つので、地球温暖化が進み、水面が上がってきてしまうと、事業の継続性が危うくなります。私たちはそういうリスクを背負っている当事者でもあります。こうした向き合うべき課題に真摯に向き合い、チャレンジし続けることをアルバルクは大切に考えているので、『ALVARK Will』の重点テーマとして取り組んでいます。ちなみに、カーボンニュートラルにも、世界的な目標がありますよね。

井上(e-dash)
はい。2015年のパリ協定に基づき、温暖化を産業革命以前に比べて1.5℃に抑える目標が掲げられ、そのためには2050年には排出量実質ゼロのカーボンニュートラルの状態を目指し、その手前の2030年に排出量を約半分まで削減するという目標が立てられています。しかし、最近は温暖化が想定以上に進んでいるため、カーボンニュートラルの実現時期を2040年に前倒ししよう、ということも言われています。

栗盛(アルバルク東京)
アルバルクも国連による『スポーツ気候行動枠組み』に署名していて、同じ目標を掲げて取り組んでいます。国や産業や立場を超えて、全員で取り組む必要がありますね。




ー算定のプロセスと結果から見えてきたもの

栗盛(アルバルク東京)
今回初めてCO₂の排出量を算定してみて初めて分かったことがたくさんありました。恥ずかしながら、最初はリアルタイムで測れると思っていたんです。よくショッピングモールとかで「今日のCO₂排出量は〇〇kg-CO₂eです」とか表示されているじゃないですか。でも、それは排出量の一部に過ぎなくて、その他のものはいろいろなデータから算定しなければならないんですよね。

石川(e-dash)
はい、そうです。CO₂の排出量には「スコープ」という考え方があって、スコープには1から3まであります。自社が直接排出するのが「スコープ1」、会場で使用する電力など、自社が間接的に排出するのが「スコープ2」、商品を仕入れる前や、商品を販売した後に排出するのが「スコープ3」と言います。「スコープ3」には人や物の移動や、商品を廃棄する時に排出するCO₂も含まれていて、リアルタイムで把握するのが難しいので、いろいろなデータをもとに、決まった方法で算定しています。



栗盛(アルバルク東京)
スコープ1から3まで算定することもあれば、一部分だけ測ることもあるんですよね。

石川(e-dash)
そうですね。測定しやすいのはスコープ1と2なので、そこだけ測っているケースもあります。しかし、スコープ3まで見なければ正確な姿は見えてきません。世界的には、そこまで算定することが求められています。今回のアルバルクさんの算定は、スコープ1から3までを対象にしています。これは日本のスポーツ界ではまだ事例が少ない取り組みだと思います。

栗盛(アルバルク東京)
今回のアルバルクの算定のプロセスの中で大変だったことは何ですか?

石川(e-dash)
スコープ3の部分の、グッズと人の移動についての算出が大変でした。グッズについては、素材を一つ一つ調べないとなりませんでした。移動については、来場者の方々の移動経路を全部調べて計算するのが大変でしたね。厳密に算定しようとすると、一人一人の移動経路を特定しないと正確な数字は出せないのですが、それは現実的ではないので、一定のロジックに基づいて算定しました。でも、妥当性のある数値を算定するためのロジックを設計するのは、様々な試行錯誤が必要でした。

栗盛(アルバルク東京)
システムにデータを入れたら自動的に算定結果が出てくる、というものではないということですね。意外と泥臭いというか…。

石川(e-dash)
はい。特にスポーツクラブのような先行事例が少ない対象については、方法論を模索しながら進めていくことになります。こういう事例やノウハウを作っていくのも、カーボンニュートラルに向けての大切なプロセスですね。

栗盛(アルバルク東京)
今回の算定結果から見える課題は何でしょうか?

石川(e-dash)
結果を見ると、スポーツクラブはファンのみなさんをいかに巻き込むかが大事なのだと改めて感じます。排出しているCO₂の多くは人の移動やグッズ由来ですが、これが「会場に来ないで」とか「グッズは買わないで」というメッセージになってはいけないと思います。
事実は事実として認識しながら、ファンの方々と共に何らかの形でカーボンニュートラルにつながるアクションを創造していけたらいいな、と思っています。そしてそういう「巻き込む力」を持っているのがスポーツクラブだと、期待しています。

小杉山(アデコ)
アルバルクさんのさらなる発展に必要だと思うのは、「Return of emission(排出のリターン)」という考え方です。
例えば、アルバルクさんでは、グッズにおけるCO₂排出量が大きな割合を占めていますが、そのグッズが啓発につながり、買った人たちの行動がよいものになっているとすれば、それはリターンとして捉えることができます。「排出量あたりの社会的意義というリターンを高めるにはどうすればよいか」という視点を持って取り組むことが、社会のハブとなり、メディアとなるスポーツクラブにとって重要でしょう。

石川(e-dash)
アルバルクさんの試合の観客数を考えれば、年間で10万人以上の人に直接接点を持てるわけです。そうした規模の人たちが何らかの形でカーボンニュートラルに取り組むことになれば、全体に及ぼす影響はとても大きなものになると考えています。




ーアルバルクのカーボンニュートラルアクションの可能性

栗盛(アルバルク東京)
アルバルクは『TOYOTA ARENA TOKYO』という新しいアリーナを2025年にオープンします。TOYOTA ARENA TOKYOは「可能性にかけていこう」というコンセプトを掲げ、「スポーツ」「モビリティ」「サステナビリティ」の3つの重点テーマを置いています。みなさんが考えるアルバルクのカーボンニュートラルアクションの「可能性」とは何でしょうか?

江東区青海に建設中のTOYOTA ARENA TOKYO。「スポーツ」「モビリティ」「サステナビリティ」の3つのテーマを掲げている。


小杉山(アデコ)
少し大きな話ですが、カーボンニュートラルを超えて、カーボンポジティブな世界を実現できたら素晴らしいと思っています。プラマイゼロではなくて、それを超えて、排出されるよりも多くのCO₂を吸収できるような世界を実現できるといいですね。
また、カーボンニュートラルの取り組みを通じて、サステナビリティ全体に広げていく動きも作り出していきたいですね。日本では「サステナビリティ=環境問題」と捉える向きが強いですが、実は社会や経済の部分も含めて「サステナビリティ」なので、カーボンポジティブなアリーナで多様な人と触れ合うことを通じて、いろいろな気づきが生まれ、自分たちの心も変わり、社会や個人のより良いありかたを体現していく。そのきっかけにアルバルクさんがなれるといいのではないかと思っています。

井上(e-dash)
非常にビジョナリーですね。別の観点で行くと、「継続性」はとても大事ですよね。ファンの方々や協力企業を巻き込むためにも、クラブが意思を持って継続している姿を見せ続けることはとても大事だと思います。あとは、共感性に根差したアクションにはこだわりたいですね。カーボンニュートラルに関わるプレーヤーはたくさんいますが、その中でも共感性と実効性をどちらとも実現し得る存在は多くないので、その部分はぜひアルバルクさんのユニークなコンセプトとしてチャレンジし続けて欲しいです。

小杉山(アデコ)
観客まで含めて、一体になって排出量を減らしていこう、というのは世界を見渡しても珍しい例ではないかと思います。今は、会社主導になりがちなカーボンニュートラルが多い中、ファンもみんなで行動するカーボンニュートラル、というのは素晴らしいですよね。

栗盛(アルバルク東京)
ありがとうございます。勇気づけられます。まだ取り組みは始まったばかりなので、可能性にチャレンジし続けたいですね。みなさんがおっしゃったようにカーボンニュートラルは社会の全員が当事者なので、ぜひ『WE』の輪を広げていきたいと思います。私たちの試行錯誤の結果得られたものをBリーグやスポーツ界、あるいは地域で共に活動する方々とも共有し、対話しながらより大きなムーヴメントにしていければ、きっと、もっと世界にとって意味のあることができると思います。そういうビジョンを持ちながら、足元のひとつひとつのことに取り組み続けたいと思います。ぜひ、引き続きご協力いただければ幸いです。本日はどうもありがとうございました。



※今回の取り組みは、アルバルク東京の社会的責任プロジェクト「ALVARK Will」の活動として取り組み、SDGsの17の目標のうち「13 気候変動に具体的な対策を」「17 パートナーシップで目標を達成しよう」に貢献します。